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part1:「Baby Don't Cry」からMAIN STREETへ……踊り手としての思い」(3/6更新)
part2:「アライブTV」から「ニュースタイル」へ……当事者の証言(3/13更新)
part3:バトル、クラブ、バックダンス・・・・・・先駆者の視点(4/3更新)

ダンスシーンだけでなくヒップホップ全体にとって、すべてが最高に輝いていた1992年。日本でもMAIN STREETというイベントがその勢いを 象徴する存在としてスタート、数々の伝説を生んできた。そのMAIN STREETが始まるきっかけのひとつ、それがエリート・フォースの存在だ。 彼らはニュースクールと呼ばれた動きをリードしていた存在で、既に世界中からの尊敬を勝ち取っている。そして今回のMAIN STREETでは ついに、そのエリート・フォースからリンクとストレッチを迎える。待望のパフォーマンスを前に、リンクにロングインタビューを敢行、貴重な話を たっぷりと聴くことができた。

LINK Profile
米ニューヨーク、ブルックリン出身。世界No.1に君臨し続けるHIP HOPダンサー。
80年代以降のHIP HOPのシーンで世界でもNo.1のその実力を誰からも認められているのは彼をおいて他にはいない。
Maria Carey、Michael Jacksonなどといった数多くのスーパースターたちの振付、PV・ステージ出演などのわかりやすく飛び抜けた実績もさることながら、アンダーグラウンドのクラブシーンにおいて既に神格化していると言っても過言ではないほどの存在である。日本でも抜群の人気・知名度を誇るその彼らが、今回MAIN STREETのステージに初登場する。

リンク ロングインタビューpart2: 「アライブTV」から「ニュースタイル」へ……当事者の証言

ダンス雑誌のステップ解説なんて「史上最低」の教師だよ!(笑)

- 先ほど(part1参照)「グルーヴを見つける」ということを言ってましたが、グルーヴってなんのことか、説明してもらえますか? -

LINK- これは日本ではもっとも難しいことだよ。テクニックは日本では一番簡単なことだ。グルーヴは一番難しい。日本だけじゃないな、ヨーロッパ でもだ。なぜかというと、(ポーズを作って)Aから(違うポーズに動いて)Bに動く。これは「テクニック」だ。でもその形の間、動く間が問題なんだ。 (やわらかく曲線的に動いて)カーヴする、この動きがグルーヴになる。でもこれを(直線的に動いて)こうしたらグルーヴは失われるんだ。
グルーヴはひとつひとつのポーズの間から生まれるものなんだ。なんでそこが伝わらないかというと、日本ではみんなカウントで教えるからだよ。 数字じゃない、ダンスのクラスだよ? 数学じゃないんだから。基礎を教えるときならワンエンツーエン……っていうのもいいかもしれない。でもそれが身についたら、(ビートを歌って)ドゥン・ア・ドゥン…ドゥドゥドゥンッ……っていう風に、ビート、サウンド、音楽で踊ることを教えなければ。
もうひとつ、ダンス雑誌でよくある、カウントごとの動きを写真に撮ったレクチャー、あれは「史上最低の教師」だよ。60年代にはアメリカでも社交ダンスのステップを足跡の図で解説したりすることもあったみたいだけど、あの写真で細切れにするっていうのは最低だね(笑)。

- (苦笑)でもそういう記事は常に人気が高いんですよ。-

LINK- ノーノーノー、ダメだね(笑)。ひとつの写真から次の写真へ動くその「間」は伝えようがない。今はレッスンもたくさんあるし、インターネットで動画だって見れる。だから紙からステップを学ぼうとしてはいけないよ。「史上最低」さ!

「アライブTV」の撮影はとにかく楽しすぎた。

- では、あなたにとって「アライブTV」はどんな位置づけにありますか? -

LINK- 「アライブTV」? もう、楽しかった。すごく楽しかったよ。ただそのへんのダンサーが集まって、みんなでしゃべってジョーク言ったりしてる間に、反対の方では別のダンサーが踊っててそれを撮影してた。リハーサルもなし、練習もなし、カットも一切なし。彼女はただオレたちが遊んで、ふざけて踊ってる姿を撮ってた。オレたちがハングアウトしてる、実際の日常を撮ったような感じだった。オレたち、ブッダ・ストレッチとルース・ジョイントが踊ってるシーンだったら、反対の方ではピーカーブーやカリーフがずっとしゃべってたり。彼女はそれをあっちこっち走り回って撮ってたんだ、別々だったり、みんなで一緒だったりね。だから本当に「ライブ」なものだった。だから「アライブTV」ってタイトルになったんだよ。
カットもなければ「今の動きをもう一回!」なんてこともなかった。めちゃめちゃ楽しかったよ。だってプレッシャーもなにもなくて、みんな「上手く踊らなきゃ」とか「これをやんなきゃ」とかなんて考えてなかった。ただ自分たち自身でいればよかったんだ。「もっと力強く!!」なんて言われなくても、自然にエネルギーが出てきてたんだ。楽しすぎたよね。

- 「自然でいる」ってことはとても重要ですよね。 -

LINK- 自然でいなきゃいけないよ。

-でも日本人ダンサーにはなかなか難しかったりします。-

LINK- ノー! 難しくないよ。

- 日本人のダンサーの多くはいつも「憧れる誰かみたいに踊りたい」、って考えてしまいがちです。 -

LINK- うーん、日本人ダンサーは「いいショウをしなきゃいけない!」って思い込んでるね。「オレのソロはよくなかった……」とか言うけど。オレから見れば、違う、あのソロは君がその場で感じていたことそのままなんだ。君がステージに出る前に感じていたこと、ステージで感じたことがそのまま出る。その後で「オレのソロがよくなかった」ていうのは違う、それが君自身の感じたもの、フィーリングだったんだ。もしステージに出る前にアガっちゃってたら、それはそのまま出る。だからそれを見れば、「ああ、緊張してるんだな」と思うし。強く踊ってるのに、目の前にいる観客は声も出さなければ手もたたかない、そういう時は「ああ彼は考えながら踊ってるな」って思う。オレたちの仲間がショウを見て話すのはそういうことだよ、「ああ、あいつもうすぐこういう動きするぞ」とかね。オレは(考えて踊ってるダンサーを見たら)これから何を踊るか、当てられるよ。
「お、もうすぐでかくフロアに飛び込むぞ、……1、2、3、4、5、ジャンプ!」って具合に。

- 展開を考えて踊っていると、先が読めてしまうんですね? -

LINK- そう、「なにかデカいことやってやろう」と考えて踊っても、観客をハッとさせることはできないんだ。(頭でなく)心から踊って、観客のことなんか考えないようにしなければ、ソロは良くはならないよ。ステージに立つ時に考えるべきなのはただひとつ、「観客がオレを見に来てる」ってこと。君が観客を見に来たんじゃない。そのことをはっきり区別しなければ。もし君がいつも「いい感じ」でいれば、いつもいい踊りができる。観客のせいでナーバスになっちゃうなら「みんな今日は下着だけで来てる」とか考えちゃえばいい。考え方を思いっきり変えちゃうんだよ。
客を見ても「あー、君は裸だね」とか考えておけばいい(笑)。ナーバスになってしまう要素があるなら、別のところに意識を向けるんだ。最前列の客のためにナーバスになるんだったら、DJとか後ろの方に意識を向ければいい。

あの頃はみんなパーティに、なにか楽しいことをしようってことにフォーカスしてた。

- 例えば「アライブTV」に映っているクラブでのサークル、サイファーで、みんなはそれぞれのダンスのどこに反応したんでしょう? -

LINK- 全部を見ていたよ。スタイル、リズム、性格、キャラクター、間……そういうもの全部を見ていたんだ。バトルではそういうものを全部フォローしないといけないんだ。だってもしどこか良くない要素があったら、見ているほかのダンサーはそれがちゃんとわかった、そこをついてくるからね。「アライブTV」のクラブシーンで言えば、あれは確かにバトルだったんだけど、それはオレたちにしか分からなかったはずだ。
あれを見ると、踊りまくって、テンションが上がって楽しんでる様子が伝わったと思うんだけど、カリーフはラバーバーンに向かって踊ってるだろ。
実はみんなラバーバーンに向かって踊ってたんだ。でも本人は気づいてなかったけどね(笑)。

- どういうこと? -

LINK- 彼はいろいろでかいことを言い過ぎてたんだ、自分では気づいてなかったけどね(笑)。バトルのシーンを撮る前にみんなで寒い中で外でしゃべってたんだけど、そこでもそういう話になってて、じゃあ中で踊ろうかってことになったんだよ(笑)。そもそも昔は、同じ名前を名乗ってるダンサーがいることからバトルが始まったことが多かった。例えば、オレがKANGOって名前で、彼もKANGOだとする。で、彼の話をみんながしていたら、オレは「違う、俺がKANGOだ!」って言ってもう1人を探し出さなきゃいけない。それでバトルに勝って、彼に名乗る名前を変えさせなきゃいけないんだよ(笑)。もちろん、オレが負けたらオレが名前を変える。それは個人的な感情だけど、それが最終的には相手に対する敬意や愛につながる。バトルの後はみんながひとつになれる。クラブ中に、そうやって生まれるフィーリング、エネルギーは素晴らしいものなんだ。

- 実際、「アライブTV」のクラブシーンはすごい熱気ですが、どうしてそういう空気が生まれてたんでしょう? -

LINK- 音楽がとにかく楽しかったからだよ。今とあの頃を比べたら、ヒップホップではみんなゴールド、チェーン、歯に入れたダイヤモンドのことなんかをラップする。でもあの頃はみんなパーティに行くこと、なにか楽しいことをしようってことにフォーカスしてた。でも今はもうどうやって金を稼ぐか、そんなことばっかりで、楽しくなくなっちゃったんだよ。唯一、楽しむことを大事にしてるのはミッシー(・エリオット)だ。
彼女はあるアルバムで「目を覚ませ、ダンスしてた時代に戻らなきゃ」って言ってる。だからナズが「ヒップホップ・イズ・デッド」とか言っちゃったんだよ。今、ヒップホップから「楽しさ」は失われてしまった、消えてしまったんだ。

- 残念ですね……。-

-「ニュースタイル」ってなんのこと? -

LINK- 別の言い方をすれば、あの時期の踊り、フランスでは「ニュースタイル」って言われてるけど、それを2008年の音楽で踊っちゃいけないよ、合わないから。ランニングマンやロジャーラビットとかのステップを「リーン・ウィズ・イット、ロック・ウィズ・イット……」(デム・フランチャイズ・ボーイズ
の「Lean Wit It Rock Wit It」)なんて曲で踊れるはずがない。あんなエネルギーの踊りに見合うパワーのある曲は今はない。今の曲はめちゃめちゃスローになってるのに、みんなすごく速く踊ろうとしてる。1992年と2008年では曲の感覚がぜんぜん違うんだよ。

- 「ニュースタイル」という言葉は初めて聴きました。 -

LINK- ただ、ニュースタイル、ミドルスクール、ニュースクール、オールドスクール、いろいろな言い方があるけど、結局はひとつのスクールしかない。ダンスはひとつなんだ。みんな、ダンスの時代を分けることで、今、流行っていることばかりのことを考えがちだけど。新しいものも数年たてばオールドスクールになるけど、それがまた新しいニュースクールになることだってある。ダンスは変わり続けていくものだけど、同時にダンスそのものはダンスのまま、変わらないんだから。「アライブTV」の中でストレッチが言ってたように、ニュースクールとオールドスクールは、基本的に同じもので、ただそれをオレたちはリズムやビートに合わせて、以前より明確にしてあげるだけだ。でもそれが「新しいスタイル」になったとしても、ダンスであることには変わりない。あのダンスはニューヨークスタイルと呼ばれるようになった、そういうダンスをLAやシカゴとか、他の地域でああいう踊り方をしてるところはなかったからね。それがちょっと長すぎるって言うんで、フランス人は「ヨーク」を取って「ニュースタイル」って呼んでるんだ。

- フランスだけ? -

LINK- そう。

- ではフランスの話が出たところで、フランスのシーンをどう思いますか? -

LINK- いいね、いいダンサーがいっぱいいるよ。

- 具体的にはどういうところがいいんですか? -

LINK- そうだな……。彼ら古きよきバトル精神を持ってる。それに、他と違うことをやることを恐れないね。何か新しいものを作ろうとして、あっちのものとこっちのものを一緒にしてみるとか、そういうことにどんどん挑戦するんだ。逆に、悪いところはね(笑)、みんな「負ける」ことを受け入れられないんだ。フランス人みんながってわけじゃないけど、ほとんどがそうだね。そこだけはあんまり好きじゃない。

もし勝ち負けの場に出るときに、勝つことしか考えていないんだったら、もうその時点で君は負けてる。だから時には勝負には勝っても実際には負けてることだってある。自分自身にね。そういう状態では、一度勝っても次にはまた負けられないって気持ちが強くなる。それはダンスを愛する気持ちから離れることだよ。負けることをうけいれないってことは、勝負する中で新しい発見をしたり、相手をリスペクトする気持ちをなくしてしまうってことだ。自分が進化する機会を自分で捨ててしまうことになる。


Part3へ続く...

text: jiro(notrax.jp)
translation: Sonny(PRIME TIME)